X Space - What's Next for Humanity Protocol

AI時代に「人間であること」の価値を再定義する ― Humanity Protocolが描く未来

チャットGPTの登場からわずか数年、世界はAIが日常に溶け込む時代へと急速に突き進んでいる。私たちの仕事や生活は劇的に効率化される一方で、デジタル空間はかつてないほどの複雑さと不確実性に満ち始めた。偽情報やディープフェイクが溢れ、画面の向こうにいる相手が人間なのか、それとも精巧なボットなのかを見分けることすら困難になりつつある。

このようなAI時代において、**「人間であること」**そのものの価値を証明し、デジタル世界に新たな信頼の基盤を築こうとする壮大なプロジェクトがある。それが、Terence氏が率いる「Humanity Protocol」だ。

彼らが目指すのは、ワールドコインのようにトークンを配布してユーザーを集める一過性のムーブメントではない。偽造困難な「手のひら認証」を入り口に、ユーザーが自らの学歴、職歴、スキルといった様々な属性を安全に証明できる「分散型アイデンティティグラフ」を構築し、それによってもたらされる「利便性」こそが真の価値だと説く。イベントの長蛇の列をスキップできる快適さ、日常の買い物で得られるシームレスな体験、そして自分の属性に価値を見出す企業からの直接的なオファー。これらは、Humanity Protocolが描く未来のほんの一端に過ぎない。

本稿では、創設者Terence氏へのAMAセッションの内容を基に、彼らがどのようにしてプライバシーを守りながらこのビジョンを実現しようとしているのか、そしてなぜ彼らのアプローチが次世代の「信頼のインフラ」となり得るのか、その核心に迫っていく。これは、私たちのデジタルな存在証明のあり方を、根本から変える物語の始まりである。

1. 技術とビジョン：Humanity Protocolが目指すもの

   中心技術： 主に「手のひら認証」を利用します。これは、偽造が困難で、Amazon Goや日本の銀行ATMなどですでに採用実績のある信頼性の高い技術です。 プライバシー保護： 手のひらの生体データを直接保存するのではなく、暗号化された「生体認証署名」（ハッシュ化されたデータ）に変換して照合します。これにより、元のデータが漏洩するリスクをなくし、プライバシーを保護します。 最終的な目標： 単なる本人確認（PoH: Proof of Humanity）にとどまらず、学歴、職歴、資産、特定のスキルなど、個人の様々な属性を証明できる**「分散型アイデンティティグラフ」**を構築することを目指しています。これにより、デジタル空間での信頼の基盤となることを目標としています。

2. インセンティブとビジネスモデル

   ユーザーへの価値提供： 他のプロジェクトのように、データを共有すること自体に金銭的な報酬を与えるモデルは採用しません。それは偽のデータを生み出すインセンティブになりかねないためです。

   「利便性」がインセンティブ： 代わりに、ユーザーには実用的な「利便性」や「価値」を提供します。

   - 事例１（時間の短縮）：

   イベントでの優先入場 コンサートやカンファレンス会場で、チケット確認のために長蛇の列に並ぶ必要がなくなります。Humanity Protocolのデバイスに手のひらをかざすだけで、本人確認とチケット認証が瞬時に完了し、専用レーンからスムーズに入場できます。ユーザーは「待つ」というストレスから解放され、時間を有効活用できます。

   - 事例２（快適さ）：

   小売店のロイヤリティプログラム スーパーやカフェでの会計時、ポイントカードやスマホアプリを探し出す手間が不要になります。デバイスに手のひらをかざすだけで、自動的に会員情報が連携され、ポイントが付与されたり、割引が適用されたりします。これにより、より快適でシームレスな購買体験が実現します。

   - 事例３（付加価値）：

   ゲーマーへの特典 特定のゲームを長時間プレイしていることを証明したユーザーに対して、次の新作ゲームで使える限定トークンやアイテムがリワードとして提供される可能性があります。これは、ユーザーの「ゲーマー」という属性に価値を見出したゲーム会社からの特典です。

   B2B2Cモデル： 企業や大学などの組織が「アイデンティティ検証者」となり、ユーザーの属性（職歴や学歴など）を証明します。この検証サービスを利用する企業から収益を得るビジネスモデル（B2B2C）を構築します。

3. プライバシーとセキュリティへの対応

   ユーザー主権： ユーザーが自身のデータを完全にコントロールできる設計です。いつ、誰に、どの情報を共有するかはユーザー自身が決定します。

   ゼロ知識証明（ZK-proofs）： この技術を活用することで、ユーザーは自分の情報を第三者に直接見せることなく、特定の条件を満たしていること（例：18歳以上であること）を証明できます。

   規制遵守： GDPR（EU一般データ保護規則）をはじめとする世界各国のプライバシー規制を調査し、これらを遵守する体制を整えています。

4. 今後の展開とグローバル戦略

   グローバル展開： 北朝鮮などの一部制裁対象国を除き、特定の地域を制限するジオブロッキングは行わない方針です。特にアフリカ市場の潜在性を高く評価しており、積極的に展開していきます。 （ジオブロッキング*：ユーザーの物理位置に基づいて、オンラインのサービスやコンテンツへのアクセスを制限するデジタル手法のこと）

   具体的なユースケースとオフライン展開（2024年7月〜）： フラッグシップストアの開設： 今年の7月から、世界各地にHumanity Protocolのフラッグシップストアを開設し始めます。これは、ユーザーが実際にデバイスに触れ、手のひら認証を体験できるショールームとしての役割を果たします。

   リテールパートナーシップ： スーパーマーケット、カフェ、ベーカリーなどの様々な小売チェーンとの提携を進めます。これらの店舗にハードウェアデバイスを設置し、前述のロイヤリティプログラムと連携させます。ユーザーは日常の買い物の中で、Humanity Protocolの利便性を体感できるようになります。

   イベントでの活用： チケット販売会社を買収し、テクノロジーや暗号資産関連のカンファレンス、コンサートなどのライブイベントでの導入を加速させます。これにより、大規模なイベントでの本人確認と入場管理を効率化します。

   TGE後の重要性： TGE（トークン生成イベント）は始まりに過ぎません。その後の実用的なアプリケーション展開とエコシステム構築こそがプロジェクトの核心であると強調しています。

   【ワールドコインとの比較優位性とヒューマニティプロトコルの描く長期ビジョン】

   ワールドコインとの比較優位性：

   ワールドコイン（以下、WLD)が「ベーシックインカム（UBI）の実現」を大きな目標に掲げ、虹彩スキャンという先進的だが議論を呼ぶ技術を採用しているのに対し、ヒューマニティプロトコル（以下、HP)は異なるアプローチを取っています。

   I. インセンティブ設計の違い：「価値提供」 vs 「金銭的報酬」

   (i) WLD： 虹彩スキャンに応じることで、トークン（WLD）という金銭的な報酬を提供します。これは短期的なユーザー獲得には有効ですが、トークンを得るためだけの行動（エアドロップファーミングなど）を誘発しやすく、持続的なエコシステムの構築には課題が残ります。

   (ii) HP： 金銭的な報酬ではなく、「時間の節約」や「利便性の向上」といった実用的な価値を提供します。これにより、プロダクトそのものに価値を感じる真のユーザーを惹きつけ、長期的に持続可能なネットワークを構築することを目指しています。

   II. ビジネスモデルの違い：「B2B2C」 vs 「UBI」

   (i) WLD： UBIの実現という壮大なビジョンを掲げていますが、そのための持続的な収益モデルはまだ明確ではありません。

   (ii) HP： 企業や組織がユーザーの属性を検証する際に手数料を得るという、明確なB2B2C（Business-to-Business-to-Consumer）モデルを持っています。例えば、企業が採用候補者の学歴を大学に照会する際などに、プロトコルが利用され収益が発生します。これにより、プロジェクトの持続可能性を確保します。

   III. 技術的アプローチの違い：「手のひら認証」 vs 「虹彩スキャン」

   (i) WLDワールドコイン： 虹彩スキャンは非常に精度が高い反面、プライバシーやセキュリティに対するユーザーの懸念が根強く、規制当局からの監視も受けています。

   (ii) HP： 手のひら認証は、すでに社会で受け入れられている技術であり、ユーザーの心理的なハードルが低いです。また、将来的にはDNAなど他の生体認証技術も取り入れる可能性を示唆しており、より柔軟な対応が可能です。

   ヒューマニティプロトコルが描く長期ビジョン：

   デジタル世界の「信頼のインフラ」へ

   ヒューマニティプロトコルの長期的なビジョンは、単なる暗号資産プロジェクトではなく、次世代のデジタル社会における「信頼のインフラ」を構築することです。これは、Facebook（Meta）やGoogleがそれぞれの形で築き上げてきた巨大な「グラフ（つながりの情報）」を、分散型の世界で再構築する試みと言えます。

   Facebookの「ソーシャルグラフ」を超える： Facebookは、人々の「つながり」や「興味」をデータ化することで巨大なソーシャルグラフを形成し、広告収益の基盤としました。ヒューマニティプロトコルは、これに加えて「証明可能な属性」（学歴、職歴、スキルなど）を紐づけることで、より信頼性の高い「アイデンティティグラフ」を構築します。

   Googleの「インテントグラフ」を超える： Googleは、ユーザーの「検索意図（インテント）」を分析することで広告ビジネスを成立させました。ヒューマニティプロトコルは、ユーザーが自ら証明した属性に基づいて、よりパーソナライズされた価値（例：特定のゲーマーに新作ゲームの特典を提供するなど）を直接届けることを可能にし、従来の広告モデルを変革する可能性を秘めています。

   AI時代の「人間証明」の基盤： 今後、AIエージェントやボットがますます普及する中で、「相手が本物の人間である」ことを証明する重要性は飛躍的に高まります。ヒューマニティプロトコルは、そのためのグローバルスタンダードとなることを目指しています。

   最終的に、ヒューマニティプロトコルは、ユーザー自身が自分のアイデンティティを完全にコントロールし、その価値を享受できる、より公平で信頼性の高いデジタル社会の実現をビジョンとして掲げています。

〈key words〉Humanity Protocol / Identity Graph / Proof of Humanity (PoH) / Palm Vein Authentication / Decentralized Identity (DID) / ZK-proofs (Zero-Knowledge Proofs) / User-centric / B2B2C Model / Digital Trust Infrastructure